田んぼを守るクモを増やして,
農薬の少ないお米作りを実現!!

蜘蛛を採取する遠藤氏

研究対象:クモ類、ザトウムシ類 
分野:生態学,保全生態学
研究タイトル:クモ米の実用化に向けた保全的生物防除研究
過去に行っていた研究:ヒゴユウレイグモの系統地理学

図1.調査地の水田風景

背景

 持続可能な社会の実現こそが私たちが一丸となり、多角的なアプローチを駆使し、取り組まなければならない問題です。中でも農業分野での取り組みとして、総合的害虫防除(IPM)が世界的に推進されています。IPMとは農作物につく害虫や病原菌に対して,あらゆる防除手段を用いて農薬の使用を最適化することで、人や環境へのリスクを軽減するというものです。IPMの主要な柱の一つに保全的生物防除(CBC)があります。CBCとは農作物につく害虫を捕食する「土着の天敵」を保全することで、その個体数を増加させ、害虫防除に役立てるという考え方です。

アシナガグモ
ウヅキコモリグモ
シロオビトリノフンダマシ
ナカムラオニグモ

図2.水田周辺に生息するクモ達

 

研究内容

 私は肉食の節足動物「クモ(蜘蛛)」に着目しています。クモは水田害虫(イナゴやウンカなど)の天敵であるため、クモを利用することで殺虫剤をはじめとした農薬の使用を減らすことができると期待されます(図2)。そこで私は何をすれば水田のクモが増えるのか、どれくらいのクモがいれば十分な防除効果が期待されるのかについて研究しています。

   現在、新潟県の農家さん達に協力してもらいながらクモを増やすための様々な農法を試しながら稲の栽培とクモをはじめとする生物のモニタリングを行っています。稲の収穫後に収量や管理にかかったコストを農薬を使った場合と比較し、クモを用いた害虫防除の実効性を検討します。

 

期待される成果

〇生物の保全に貢献します!

 農薬を減らすことによりクモ以外の生物多様性も増加します。

〇途上国の貧困支援になります!

 減農薬が実現されれば、発展途上国で農業害虫用殺虫剤の輸入に投資されている年間数百万ドルのうち一部を別の社会問題への投資に充てることができます。

研究者から一言

 弥生時代、五穀豊穣を祈る祭事に使用された銅鐸にはカエルやカマキリに並びクモが描かれています。古代の人々はクモが有用な生き物であることをちゃんと知っていたのです。しかし、いつからかクモは嫌われる対象になってしまいました。とても残念なことです。この記事や展示会を通して、皆さんが少しでもクモに興味を持ち、「すごい!」、「おもしろい!」と思ってもらえたら幸いです。

 

研究を遂行する際に困っていること

〇調査圃場の確保

 実験デザインに合致する圃場を探すことが最も大変です。
例えば、小規模な区画で行う栽培実験に適した水田はなかなかありませんし、1年中用水が利用可能な水田を探すことも大変でした。

〇研究資金の確保

 農家さんへ水田利用料として、その水田で収穫が見込まれるコメの値段相当を支払わなければなりません。多く水田を借りて多くの実験を行いたいですが、一般的な1haの水田1枚借りるだけでも100万円近く必要です。