ゴキブリ夫婦の奇妙な行動を紐解け!
食べちゃいたいほど好きなんだもの?

大崎氏.自身のポスターの前にて

研究対象:リュウキュウクチキゴキブリ Salganea taiwanensis ryukyuanus 
分野:行動生態学
研究タイトル:生物初のオスメス両性による共食いの適応的意義と進化機構の解明
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背景

 生物は謎に満ちています。中でも子孫を増やす重要な行動である「繁殖」にはオスとメスの関係が直接関係しますが、オスとメスは実は協力するというよりは対立しているとこれまでの研究で言われてきました。なぜ対立が生まれるのでしょうか。一般的に、オスは多くのメスと交尾して自分の子供を増やしますが、メスはたくさんのオスと交尾しても自分が作れる卵の数が多くないので数より質で、質の良いオスと交尾しようとオスを選びます。このようにオスとメスでは子孫の増やし方に違いがあるため、オスにとって良い戦略とメスにとっていい戦略が異なり、対立してしまうわけです。これが性的対立です。しかし、人間を含めてどんな生物にも当たり前にあるはずのこの性的対立が存在しない可能性がある生物、それがリュウキュウクチキゴキブリ(Salganea taiwanensis ryukyuanusです(図1)。

 このゴキブリはオスとメスが交尾した後、お互いの翅を食い合います。その後朽木の中に穴を掘って巣を作り、そこで子育てする生態を持っています。両親で子の世話をする生物は鳥などが知られていますが、大半の鳥類はオスもメスも浮気(つがい相手以外との交尾「つがい外婚」)をしています。しかし、このリュウキュウクチキゴキブリは浮気をしない一夫一妻の生物だと考えられているのです。一切浮気をしない生物、つまり決めた唯一の個体としか交尾しない生物は、性的対立もないと考えられます。しかし、このような生物はあまり例がなく、対立関係のない、つまり、真の協力関係にあるオスとメスはどのような配偶行動をするのか全く分かっていません。

 そこで翅の食い合いがカギになります。翅の食い合いは交尾の前後でオスとメスがお互いの翅を食べあってしまう行動です。配偶時にこんな行動をする生物は他に知られていないのです。ここにオスとメスの真の協力関係が反映されているのではないか?と考えています。一見互いを傷つけあっているように見える翅の食い合いが実は協力関係の現れかもしれません。翅の食い合いに似た行動としては「性的共食い」「婚姻贈呈」があります。カマキリで交尾の際にメスがオスを捕食する例などは代表的な性的共食いです。オドリバエの仲間では婚姻贈呈が見られ、オスが糸でくるんだ獲物をメスにプレゼントしてメスが食べている間に交尾するというものです。しかし、これらの例はすべて一方の性がもう一方の性(もしくはプレゼントした餌)を食べるという一方的なもので、お互いに食べあったり、プレゼント交換するような例は他では見つかっていません。互いに体の一部を食べ合うという行動は、リュウキュウクチキゴキブリのみで観察されている非常に珍しい行動なのです。本種を用いれば性的対立のない繁殖でのオスとメスの行動や、それが協力行動なのかを解明することができます。

図1.リュウキュウクチキゴキブリが羽を食べ合う様子(作者:大崎氏)

 

研究内容

 翅の食い合いはこれまでの性的共食いにも婚姻贈呈にも当てはまらない「摂食を伴う第3の配偶行動」と言えます。これまでになかった全く新しい仮説をいくつも立て、それを検証していく毎日です。仮説をもとに翅の食い合いをビデオカメラで観察し、どのようにオスとメスが振る舞うのか見ながら、どうして翅の食い合いをするのか?を暴いていきたいと思います。

期待される成果

  • 野外で条件を満たす生物がこれまで見つかっておらず実証例がない
    「生涯同じペアで一夫一妻なら雌雄の協力が進化する」という理論の初の実証例となる
  • 翅の食い合いが協力であることを示せれば、対立らしく見える行動が実は適応進化の観点から見ると協力であるという世界初の例を示すことができる。

 

研究を遂行する際に困っていること

  1. ゴキブリアレルギーになってしまい,ゴキブリを持つと指がかゆい……

  2. 生態がわかっていないので飼育方法も自身で開発。
    (それまではよく死んでいました。ゴキブリなのに!)

  3. 意外と力が強いのですぐ脱走する…!!