チョウチョはどうやって身を守るのか!?
AIの視点から明らかに!

蝶の写真を撮る網野氏と肩に乗るヒオドシチョウ

研究対象:チョウ全般 
分野:昆虫生態学
研究タイトル:AIを用いたチョウ翅模様の擬態効果の解析
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背景

 木の幹に模様を似せて紛れる蝶,毒を持つ蝶に姿を似せる蝶,目玉模様と尻尾を付けてお尻を頭に似せる蝶(図1)などなど、蝶の「擬態」は自然選択が進化させた興味深い現象であり、研究者だけでなく多くの人々を魅了してきました。しかし、「擬態の完成度を評価する」というのは案外難しいもので、時に専門家の間でも「擬態できているのかどうか」の判断が異なっていたりします。また、我々人間から見て似ているものでも、それが捕食者にとって似ているかどうかの保証はありません(たとえば、鳥は我々には見ることの出来ない紫外線を見ることが出来ます)。

 すなわち、「類似度の客観的な評価」と「捕食者の視点の模倣」は擬態研究にとって重要な課題と言えるでしょう。

研究内容

 私は、AIを使うことで人間の主観的な判断に頼らない類似度の評価を試みると共に、AIが鳥と同じ反応をするように改造しようと考えています。具体的には、

・ 深層学習に基づく画像分類ネットワークを利用してチョウ標本画像間の類似度を客観的に評価する

・ ネットワークへの入力に紫外線画像を加えて鳥の色覚を模倣した類似度評価を行う

という、上記2つのテーマを中心に、擬態研究における新手法の開発に取り組んでいます(図2)。

図2.深層学習によるチョウの画像分類ネットワークのイメージ

期待される成果

    様々な種類の擬態現象を調べている研究者が、本手法を利用して新規擬態現象を発見・既知の擬態現象を定量的に検証することが可能に!!

 AIによって動物の認知システムを模倣することでこれまでの動物実験のコストを大幅に削減することができる!!

研究者より一言

 近年AIの発展はめざましく、いつかは人間の仕事までAIに奪われてしまうのではないか、という危惧さえ耳にします。その一方でAIには、これまで人間が捉えてきた世界の在り方をより相対的な視点で捉え直し、我々が気付かなかったことを掘り出してくれる、という役割があるとも言われています。「蝶の擬態を、人間の判断に基づかず、さらには鳥の視点から捉え直すことで新たな気づきを得よう」という試みによって、AIの魅力を伝えていきたいです。

研究を遂行する上で困っていること

 今すぐ実用化に結びつきそうにはない研究の価値を,一般の方々を含めた幅広い層に伝えることが難しい…

 

謝辞

展示に用いられている蝶標本画像は東京大学総合研究博物館の協力を得て撮影されました。
なお、本研究はJSPS科研費21J20942ならびにJST戦略的創造研究推進事業ACT-X JPMJX21A2からの助成を得ています。