対馬伝統「ニホンミツバチ」養蜂を守れ!
研究対象:ニホンミツバチ、サックブルードウイルス、伝統養蜂の在来知
分野:保全生態学と市民科学
研究タイトル:ニホンミツバチの外来感染症の生態学的研究と
伝統養蜂の在来知の活用
背景
長崎県対馬市が位置する対馬島では,なんと6世紀ころ(飛鳥時代)から養蜂が行われていたという説があります.それほど古くから養蜂を行なっていた地域というのは日本においても珍しく,セイヨウミツバチを用いるのが主流の現代においても,対馬では扱いが難しいニホンミツバチのみが養蜂に用いられています.2000人もの養蜂家がいるとされる対馬ですが,主な産業としては扱われておらず,小規模に広く普及しているといえます.それぞれの養蜂家はニホンミツバチの管理方法について知識や技術,経験を交換していることから「在来知(*1)」が存在すると言えるでしょう.
そんな対馬の養蜂文化に危機が迫っています.サックブルードウイルス病とは、日本には元々無いミツバチ類に感染するウイルス病です。ニホンミツバチが感染した場合、成虫は死亡することはありませんが,幼虫は前蛹の時に死亡することが多く、巣の崩壊を招くウイルス病です。対馬市には2014年に初めて感染が確認され、それ以降、毎年大きな被害が報告されています。
*1. 在来知とは:ある集団がその環境のなかで生きるために持っている知恵と工夫、あるいは地域に根差した小規模な経済活動のことを指します。
研究内容
高田氏は、気象データや周辺の土地利用,ニホンミツバチの巣箱周辺の環境,別の巣箱の働きバチとの接触などさまざまなデータを採取することで,このサックブルードウイルス病がどのようにミツバチの中で拡散していくのか,対馬の養蜂家グループと連携して解明に取り組んでいます.
同時に,それらの調査結果を対馬の養蜂家の皆さんがどのように受け止め,どのように対応してゆくのか,養蜂家の活動への参加意欲と管理の関係など聞き取り調査など行って対馬の人々の文化や活動に着目した研究も行っています.
「在来知」のような地域に根ざした知恵がどのように形成され,引き継がれるのか,ニホンミツバチだけを研究対象とはせず,それに関わる人々も含めた複合的な研究に取り組んでいます.
期待される成果
ニホンミツバチに大きな影響を与えているサックブルードウイルス病がどのように広まっていくのか,感染経路などを明らかにする!
外来種や外来のウイルスといった新たな脅威に対して地域住民の中で新たな「在来知」がどう構築されていくのか明らかにする.
地域住民と連携した生物多様性保全の新たなモデルとなる!
研究者より一言
気候変動や大規模な物流によって、地域の環境の変化や生物や病原体の人為的な移動が起こっています。この状況下でかつての人と自然の関係をそのまま維持することは難しいでしょう。
この状況に対して、地域と研究者の相互作用の中で、変化に順応できる自然と人間の関係構築のための新たな知識が生産されると考えます。地域で生産される新たな知を生かし、地域の生物多様性を維持できるモデルケースのひとつを作っていければと思います。
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