同じ種類のオスでも姿が違うザトウムシの謎とは…

マレーシアのとある山の山頂でギターを弾く松井氏

 

研究対象:マザトウムシ Phalangium opilio 
分野:行動生態学、系統地理学,進化生態学
研究タイトル:マザトウムシのオスの2型の形成要因の解明

図1.このシルエットをどこかで見たことある人も
多いのではないでしょうか…..

背景

 地球上には様々な生物が存在しており,その中にはクジャクの羽やカブトムシの角などにみられるように同じ種類でもオスとメスで異なる姿形をもつ生物がいます.さらに同性内でも姿形が異なる場合もあり,例えばあるコガネムシの仲間では大きいオスと小さいオスの2種類がいます。大きなオスは戦いに有利で、穴の奥にいる交配相手のメスを穴の入り口に陣取って他のオスからガードしますが,小さなオスは正面から侵入してこのメスと交尾できないので、横穴を掘って忍び寄るスニーキングという行動をとります。このような繁殖に関わる行動の違いは代替的繁殖戦略と呼ばれ、様々な行動が多くの生物で知られています。このような形態や行動の違いがどのように生まれてきたか明らかにするには、同種内でも複数の異なる形態を持つ集団間でその環境の違いや遺伝的な違いを調べる必要がありますが,そのような研究は少ないのが現状です。

研究内容

 日本に生息している「マザトウムシ」を用いて、多型(同じ種類なのに姿形が異なること)やその行動の違いがどのように生まれてきたか明らかにする研究に取り組んでいます。

 そもそもザトウムシとはクモの仲間で小さなボールから8つの細長い足が出ている生き物と考えていただければわかりやすいかもしれません(図1)。乾燥に弱いので、薄暗い森の木に張り付いていることが多く,襲われると足を自切して逃げるが、この足は再生しません...クモの仲間では唯一オスがペニスを持っており、真の交尾を行うなど、面白い生態をしている生き物です。

 その中の一種である「マザトウムシ」は、北米、ヨーロッパ、ニュージーランドなど世界中に広く生息しており、日本では北海道でのみ確認されています。オスにだけ角があるという特徴があり、オス同士は角を使って押し合いの喧嘩をして、大きい角の個体が必ず勝つことが知られています(図2)。そして札幌の集団でのみオスの角の大きさに2種類存在することが確認されています。これは集団間で2型の有り無しの違いが存在する可能性を示しているので、私は北海道中を調査して生息地を見つけるところから取り組んでいます。昨年は12か所発見し、今年も採集して2型の有無とその遺伝的、環境的要因をDNA解析や飼育実験から明らかにし、行動の違いも録画実験などを通じて明らかにしたいと考えています。

 

図2.争うマザトウムシのオス

研究者より一言

 気候変動などによって生物多様性が失われつつある今日ですが、何がどのように影響を与えているのかを知ることで、その対策もより具体的に考えることができるようになります。その一端として多様な生き物が生まれるメカニズムを知ることは重要だと考えています。生物多様性が失われないようにすることが守りの対策だとすれば、多様な生物が生まれやすい環境を維持し続けることは攻めの対策になるのではと思っています。そのような対策の一助になるように研究しています。

 

期待される成果

・本研究はマザトウムシを対象に,生物が多様な形態や行動を生み出す要因を明らかにする!!!
・環境と角の多型の関連が明らかになれば,マザトウムシは環境評価の指標になる可能性も…?!

 

研究遂行に際して困っていること...

採集や飼育をすべて一人で行っているので、人手が足りない…採集は北海道を一周するので、その間の餌やりは任せられる人がいないとできない…

謝辞

 本研究は羊ケ丘展望台さんによるご協力のもと行っているものも含まれます。この場を借りて感謝申し上げます。見晴らしのいい風景に、美味しいご飯も食べられますのでとてもおすすめです!
また本研究は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2119 の支援を受けたものです。